この人はこれまでの人生、孤独とともにのみ生きてきたのだろうか・・・。
第1回目の放映時から、「僕はあと11日後にこの世からいなくなるんです」と臆面もなく言い放つ。 その言い方が余りにもさらりとしすぎていて違和感を覚えたのですが、今思うと、半生の中で少しずつ死を決意し、すでに覚悟も境地に至っている状態なのだろうと・・・。
【あしたの、喜多善男 第10話】
残りの人生、あと2日となった善男(小日向文世)。みずほ(小西真奈美)から連絡を受けた平太(松田龍平)は、生きていた三波に会いに行こうと強引に善男を連れ出す。

三波が生きていることを平太から知らされ、拒みながらも再会を果たすシーン。
三波:「この人はとっくに知ってたんだよ。俺がなぜみずほと結婚させたか」 善男:「知りません、そんなこと知りません」
そこにネガティブ善男が現れる。
「そうだよな、知りたくないこと、汚いことは全部オレが抱え込んできたんだ」
善男:「消えろ!消えろよ・・・!」
その尋常でない様子に気付いた三波は、
「目をそむけるんじゃない!見るんだ、(自分が作った)もう一人の自分としっかり向き合うんだ!」
三波は実績を挙げている心理学者であり、喜多善男に暗示をかけることで抹殺しようと計画していたが、計画半ばにして飛行機事故と遭遇(?)し、失敗に終わっている。 だからこそ、ネガティブ善男は自分の暗示によるものではなく善男自身が作り上げた虚像なのだとわかっているのだ。
そして・・・ネガティブ善男が消える・・・。
ついに、数々の辛い現実のすべてを思い出し、直視せざるをえなくなった善男。 自分は何もかも気づいていたのだ。みずほが自分を愛していないこと。なぜたくさんの保険に入らされるのか。偶然出会った平太がなぜこんなに優しくしてくれるのか…。 善男の感情が爆発した。自分を利用しようとした者たちに。自分のことしか考えていない世間に。そして、そんな中で騙されることでしか必要とされてこなかった自分に――。
そのとき、喜多善男の人が変わったように叫んだ言葉・・・!!
「そうだよ・・・!わかってたんだ。全部わかってたさ!」
「・・・俺なんて、だまされでもしなけりゃ、誰も近づいてこないんだよ!」
衝撃的なセリフでした。
テレビの向こうでさらに叫び続ける喜多善男に釘付けになりながら、しばらくの間その衝撃は尾を引き続けていました。
このセリフは、真実、孤独な者でないと出てこない・・・! 究極のセリフであると思いました。
いったい、どんな人生を送ってきたのだろう、この人は・・・。
この回を迎えるまで、ドラマの中の喜多善男は、本当に善人が服を着て歩いていると思うくらい人のいいキャラクターでやってきた。 どうみても人から好かれるキャラクターであるはずなのだけれど、反面、孤独を一身に抱え続けてきた人生だったのだ。
そして注目すべきは、もう一人のネガティブ善男の存在。 この仮想現実的な存在は、もしかして誰しもが内面に持っているものではないだろうか。 どこかでそれをわかっていて、気に入らないことや社会的に汚いことなんかは全てそいつに押し付けて、きれいなところだけしか見えないかのように日々を送っているのではないだろうか。 むしろ、そうでもしないことには現代社会で生きていけないのかもしれない。
喜多善男は、孤独と不運にまみれた自分の人生に訣別しようと決めたとき、自分でも無意識にネガティブ善男を視界に置くようにしたのかもしれない。 自分をだましながら生きてきた自分に、どこかで嫌気がさしていたのかもしれない。
もういいかげん自覚しろよ、・・・と。
そしてその夜、キャバクラに戻った平太の前に、善男が携帯を返しに現れた。平太は金のため善男を利用しようとしていたと告白する。どこへ行くのか尋ねる平太。善男は、みずほと行こうと思っていた場所があると告げる。たとえ一瞬でも、みずほと心がつながったと感じた、ある場所。「俺も喜多さんと――」その時、刑事が乗り込んで来た。善男はとっさに平太をロッカーの中に隠し、保険に入ったのは自分の意志で、誰からも命を狙われてなどいないと嘘をつく。
もう、平太の前に現れないのではないか、と思っていたのですが・・・。 このときの喜多さんの表情に複雑な心境がよく現れていて、切ない気持ちにさせました。
ネガティブ善男は消えたのではなく、もともともうひとつの自分であるわけで、それを自覚し認めることで仮想現実的な存在ではなくなったのです。 だから、それまでの喜多善男の表情ではいられないはずなのです。
小日向文世さんはやっぱりすごい役者です。 ふたつの人格を演じ分けた上に、一体になった人格を見事に表現しています。

最終話、衝撃の結末が・・・ 予想通りなのか、それとも予想外の展開と結末が待っているのか・・・?!
『あしたの、喜多善男』―――。 原作は島田雅彦の『自由死刑』。 彼は、この物語を通して何を伝えようとしているのか、ドラマの余韻を心の隅に残しつつ、いずれ読んでみたいと思っています。
テーマ:あしたの、喜多善男 - ジャンル:テレビ・ラジオ
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